2008/06/14

勝手に論文紹介(5月分)

更新頻度が低い、面白くない、と評判の当ブログですが、基本的に仕事関係のことしか書かないというコンセプトなので、なかなか変なことが書きづらいのです。とはいえ、少し反省したので、もうすこし面白いこと書くように努力します。

で、ちょっと遅れましたが毎月恒例の面白くない論文紹介です。

L. Barbosa-Barros, A. de la Maza, J. Estelrich, A. M. Linares, M. Feliz, P. Walther, R. Pons, and O. Lopez, "Penetration and Growth of DPPC/DHPC Bicelles Inside the Stratum Corneum of the Skin", Langmuir 24 (2008) 5700-5706.
最近、自分が主に取り扱っているbicelleと呼ばれる平板ミセルをskin treatmentに用いよう、という動きがあるらしく、それに対する基礎研究として皮膚の角質層にbicelleが浸透する様子をcryo-SEMで観察した研究。とりあえず、角質層とは独立にbicelleを希釈するとvesicleになった、という結果も興味深いのだが、角質層に入れてもvesicleになる、というのもおもしろそうな感じがする。似たようなものを取り扱うにしても、人によって色々な見方をするものだなぁ。

A. K. Jha, J. Lee, A. Tripathi, and A. Bose, "Three-Dimensional Confinement-Related Size Changes to Mixed-Surfactant Vesicles", Langumuir 24 (2008) 6013-6017.
2種類の界面活性剤を混ぜるとできるvesicleを、closed-packしたポリスチレンビーズの隙間に入れるとどのように構造変化するのか?というのを中性子小角散乱で調べた研究。自由体積の減少に伴う構造変化は両親媒性分子の自己組織化構造に強く影響するはずなのだけれど、それを調べた研究は少ない、というのが動機らしい。考え方自体はおもしろそうだと思うのだが、実験結果の解析が何かすごく怪しいなぁという感じでイマイチ信用できないのが残念。

A. Ghosh and J. Dey, "Effect of Hydrogen Bonding on the Physicochemical Properties and Bilayer Self-Assembly Formation of N-(2-Hydroxydodecyl)-L-alanine in Aqueous Solution", Langmuir 24 (2008) 6018-6026.
両親媒性分子間に生じる水素結合のように短距離的な引力が二分子膜構造の安定化に寄与している、という話が最近もちあがっているらしく、その効果を調べるために普通の両親媒性分子(C12Ala)と、水素を1つだけOHに置換した分子(C12HAla)とで構造の比較を行った研究。C12Alaがミセルとして安定化するのに対し、C12HAlaは球状ベシクルやチューブ等、二分子膜を基本とした構造を形成するということで、水素結合の効果が現れてますよ、ということみたい。今まで両親媒性分子間の短距離力に気をつけたことはなかったのだけど、言われてみれば確かにそうかも。なるほどねぇ。

D. Li, J. R. Dunlap, and B. Zhao, "Thermosensitive Water-Dispersible Hairy Particle-Supported Pd Nanoparticles for Catalysis of Hydrogenation in an Aqueous/Organic Biphasic System", Langmuir 24 (2008) 5911-5918.
化学反応の触媒として有効なナノ粒子だが、凝集しやすいので、うまいこと表面積を増やすために色々な方法が模索されているらしい。この論文ではpoly(t-butyl acrylate)(PtBA)という粒子にポリマーのブラシをコートした後、Pdのナノ粒子をPtBAに埋め込むことで触媒作用がある粒子ができないか、という試みをしている。実際に作成した触媒粒子だが、温度によってブラシが伸びたり縮んだりするため、相転移温度を境に反応速度が変化するらしい。

E. Rakhmatullina and W. Meier, "Solid-Supported Block Copolymer Membranes through Interfacial Adsorption of Charged Block Copolymer Vesicles", Langmuir 24 (2008) 6254-6261.
ABAブロックコポリマー(A:親水,B:疎水)が水中で作るベシクルを基板表面に落とし、基板にバイオセンサーになるようなポリマーの膜を作ろう、という研究。HOPGという疎水性の膜にベシクルを落とすとうまいこと膜はできるのだが、乾燥させると膜が壊れてしまう。一方、SiO2やmicaのような親水性の基板だとうまいこと膜を作るだけでなく、乾燥後も安定に存在できるらしい。これらの違いは基板表面にひっついた際の親水部、疎水部の配置の違いによるものだ、ということみたい。

Y. C. Jung and B. Bhushan, "Dynamic Effects of Bouncing Water Droplets on Superhydrophobic Surfaces", Langmuir 24 (2008) 6262-6269.
超撥水表面に水滴を落とすと水がバウンドする、というのはよく知られた現象なのだが、落とした速度によっては撥水表面が本来持っている撥水性(ぬれ角)が悪くなるらしい。ちゃんと読んでないのだけれど、すごく早く落としてしまうと加工した表面の溝(これが撥水性のポイント)に水が入り込んでしまい、ぬれ角が減少するのだろう、ということみたい。まぁ、言われてみれば当たり前な気もする。

L. Wang, K. J. Mutch, J. Eastoe, R. K. Heenan, and Jinfeng Dong, "Nanoemulsions Prepared by a Two-Step Low-Energy Process", Langmuir 24 (2008) 6092-6099.
普通に水・油・界面活性剤を混ぜるとマイクロエマルションができますが、最終的な組成が同じでも、一度別の組成で安定させてから作るとナノエマルションってのができることがあるらしい。で、この論文によると、ナノエマルションはいったん別の組成で安定させた際の構造によって、できあがる構造が変化するらしい。試料の調整方法によって構造が変わるというのはよくある話なのだが、まだまだちゃんとわかってないまま放ってあることってのはたくさんあるんだろうなぁ。

M. H. M. Leung, H. Colangelo, and T. W. Kee, "Encapsulation of Curcumin in Cationic Micelles Suppresses Alkaline Hydrolysis", Langmuir 24 (2008) 5672-5675.
クルコミンというウコンの有効成分をミセルの中に閉じ込めて、それが水の中に乖離していく様子を蛍光で調べた論文。で、結果としてはCTABやDTABといった陽イオン性の界面活性剤を用いるとクルコミンはあまり乖離せず、SDSのような陰イオン性の界面活性剤を用いるとクルコミンは効率的に水へと乖離していったらしい。実はクルコミンってのは3価の陰イオンなので、陰イオン性の界面活性剤からは率先的に飛び出します、という当たり前な結果みたい。

S. A. Akimov, V. A. J. Frolov, P. I. Kuzmin, J. Zimmerberg, Y. A. Chizmadzhev, and F. S. Cohen, "Domain formation in membranes caused by lipid wetting of protein", PRE 77 (2008) 051901.
生体膜内に存在するタンパク質が密集したドメイン(いわゆる脂質ラフト)について、脂質によるタンパク質のwettingとして取り扱うことでラフトの形成メカニズムを理論的に考察した論文。理論なので全然読んでないのですが、脂質ドメインの膜厚や弾性係数といったパラメータからドメインサイズを計算することができ、それが実際の脂質ラフトのサイズとだいたい一致(直径数十nm)している、ということらしい。

J. Pan, T. T. Mills, S. T. Nagle, and J. F. Nagle, "Cholesterol Perturbs Lipid Bilayers Nonuniversally", PRL 100 (2008) 198103.
このグループはX線小角散乱を使った脂質膜の構造解析に命をかけてて、今回はコレステロールの効果に着目してる様子。具体的には、いくつかの種類の脂質にコレステロールを加えていき、コレステロールの量に対して曲げ弾性、炭化水素差の秩序、膜厚がどのように変化するかを観察してる。炭化水素鎖に二重結合があるかないかで振る舞いが変わる、という結論なのだけど、何か安直な気がする。