2008/08/14

勝手に論文紹介(7月分)

お盆ですね。
辞令と共にもらった雇用条件によると、僕の身分はお盆休みに関する項目がありません。
年末年始は休んでもよい、と書いてあるので、お盆に関する記載がないということは、お盆も休んではいけない、ということでしょうか。
がんばって出勤してますが、どうも身が入らないです…

そんなわけで、今月も論文紹介です。

J. OHKUBO, N. SHNERB, and D. A. KESSLER, "Transition Phenomena Induced by Internal Noise and Quasi-Absorbing State", J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 044002.
閉じた系での化学反応におけるノイズの効果を議論した論文。理論の論文なので深いところは全然追えないのだが、細胞のような微小空間における反応において、ちょっとした濃度分布によって生じる揺らぎが大きな影響を与える、ということらしい。

J. Suzuki, A. Takano, and Y. Matsushita, "Topological effect in ring polymers investigated with Monte Carlo simulation", J. Chem. Phys. 129 (2008) 034903.
環状高分子の長さNを変えた際の分子の広がりをモンテカルロシミュレーションで議論した論文。普通の鎖状高分子の場合はNの1/2乗に比例するのだが、環状高分子ではその形状の違いのため2/5乗に比例することが理論的に予言されていた。しかし、このシミュレーションによると2/5乗よりもさらに小さくなるのではないか、ということ結果が得られた。ちなみに、職場の同僚の論文です。

J. Swenson, F. Kargl, P. Berntsen, and C. Svanberg, "Solvent and lipid dynamics of hydrated lipid bilayers by incoherent quasielastic neutron scattering", J. Chem. Phys. 129 (2008) 045101.
Si基板の上に積層させたリン脂質膜の中性子準弾性散乱実験。リン脂質:水分子が1:9ぐらいのモル比で実験をして、それぞれのダイナミクスが温度に対してどのように変化するかを調べている。が、分解能とかの関係で一番見たかった運動の異方性についてはよくわかりませんでした、という話でした。準弾性散乱の実験について少し勉強してみようと思って落としたのだが、ちょっとがっかり。

S. Aranda, K. A. Riske, R. Lipowsky, and R. Dimova, "Morphological Transitions of Vesicles Induced by Alternating Electric Fields", Biophys. J.: Biophys. Lett., L19 (2008).
リン脂質ベシクルに交流電場を印加し、ベシクルを変形させるという実験に関する論文。周波数が低いとベシクルが球から電場方向へ伸びた回転楕円体へ変形するのだが、ベシクル内の電気伝導度が外よりも低いと逆に電場方向へ縮んだ回転楕円体へと変形するらしい。

H. C. Shum, D. Lee, I. Yoon, T. Kodger, and D. A. Weitz, "Double Emulsion Templated Monodisperse Phospholipid Vesicles", Langmuir 24 (2008) 7651.
最近流行のmicrofluidicsを使って大きくて均質なリン脂質ベシクルを作る、という論文。一度W/O/Wエマルションを作って溶媒を飛ばすのだが、内側の水相に物質を容易に封入させることも可能。毎秒500個程度のベシクルが作れるらしい。果たしてこのシステムを作るのがどれくらい簡単なのかが素人には分からないのだが、これを作れる簡単なキットとか売られるようになったら買うかも。

M. Nagao, H. Seto, "Concentration dependence of shape and structure fluctuations of droplet microemulsions investigated by neutron spin echo spectroscopy", Phys. Rev. E 78 (2008) 011507.
研究室の先輩の論文。中性子スピンエコー法を用いてマイクロエマルションのダイナミクスを観測するのだが、Relative Form Factorというのを用いてエマルションを構成する膜のダイナミクス[P(q,t)]とエマルション自身のダイナミクス[S(q,t)]を分離する、という話で、その結果S(q,t)に並進拡散以外のモードが乗っている、ということを示している。

S. R.-Vargas, R. B.-Rodriguez, A. M.-Molina, M. Q.-Perez, J. Estelrich, and J. C.-Fernandez, "Growth of lipid vesicle structures: From surface fractals to mass fractals", Phys. Rev. E 78 (2008) 010902(R).
ベシクルの凝集体のフラクタル構造に対する2価カチオンの効果を静的光散乱で観察した結果に関する論文。カルシウムイオンだとmass-fractal構造になるのに対し、マグネシウムイオンだと濃度に応じてsurface-fractalからmass-fractalへの転移が見られる。そして、これはカチオンの添加によって生じる脂質のdehydrationがベシクル間の短距離相互作用に効くため、ということらしい。

J. D. Sitt, A. Amador, F. Goller, and G. B. Mindlin, "Dynamical origin of spectrally rich vocalizations in birdsong", Phys. Rev. E 78 (2008) 011905.
錦華鳥という鳥の鳴き声を解析した実験に関する論文。どうも、鳥の鳴き声って人間やら何やらの発声に関するモデルとして取り扱われているらしい。内容としては、正直あまり分からなかったが、こういうことも研究されてるんだなぁと知ることができただけでとりあえずよしとしよう。

H. Jiang and T. R. Powers, "Curvature-Driven Lipid Sorting in a Membrane Tubule", Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 018103.
リン脂質ベシクルを引っ張った際に形成されるチューブについて、複数の脂質を混合した際に相分離とどのようにカップルするか、ということに関する理論の論文。引っ張られることによって形成されるチューブともとのベシクルとの間で曲率が違うため、それによって脂質が相分離しますよ、ということを示している。

2008/08/08

久しぶりの原子炉

先週は久しぶりに東海村へ行って、原研にあるJRR-3という原子炉で実験しました。
JRR-3は学生時代から通っているので、もう7,8年はお世話になっている、ということになります。
特に、博士課程の2,3年の頃は半分ぐらい東海村に駐在していましたので、原子炉で実験していると知り合いにいっぱい会うことになります。
今回もご多分に漏れず色々な人と近況を報告し合ったりしたのですが、みなさん元気そうでなによりでした。

さて、今回は中性子小角散乱という実験と中性子スピンエコーという実験を掛け持ちでやってました。
厳密に言うとオーバーラップしていたのは1日か2日ぐらいでしたが、やっぱ同時に実験するというのはなかなかしんどいです。
特に、中性子小角散乱実験の方は数時間おきに顔を出して作業しなきゃいけない、という割とハードなスケジュールになっていて、しかもそれを昼夜関係なく一人でやろうというのだからなかなか大変なのです。
まぁ、さすがに夜はちょっと長めに測定時間をセットして寝る、という調整はしてるので何とか持ちこたえられますが、それでも疲れたなぁと毎日考えてた気がします。
数年前ならもう少し元気だったような気がするのですが…おかしいなぁ。