2008/09/15

勝手に論文紹介(8月分)

もうすぐ秋分の日ですね。
というわけで、秋の夜長に論文紹介でもいかがでしょうか?

O. M. Tanchak, K. G. Yager, H. Fritzsche, T. Harroun, J. Katsaras, and C. J. Barrett,"Ion distribution in multilayers of weak polyelectrolytes: A neutron reflectometry study", J. Chem. Phys. 129 (2008) 084901
正に帯電したポリマーと負に帯電したポリマーの水溶液に交互に浸して積層した"polyelectrolyte multilayers"(PEMs)中のイオンと水の分布を中性子反射率計で測定した実験に関する論文。PEMsを塩を含む溶液に浸すと基板、およびフィルムの最表面にイオンが偏在するらしい。ただ、素人にとっては割と簡単な操作で多層膜を作ることができるってことが意外に感じた。共に親水性なのにフィルムは剥がれないんだろうか?

W. Beziel, G. Fragneto, F. Cousin, and M. Sferrazza, "Neutron reflectivity study of the kinetics of polymer-polymer interface formation", Phys. Rev. E 78 (2008) 022801
またもや中性子反射率計を用いた実験で、こちらは異種のポリマー同士が接した界面がどのように平衡に近づくのか、そのkinetic processを調べた論文。2種類のポリマーの相互作用パラメータを変えながら実験し、相分離が弱いときにcapillary waveで説明できるような相互拡散のモードが観測された、ということらしい。

S. A. Nowak and T. Chou, "Membrane lipid segregation in endocytosis", Phys. Ref. E 78 (2008) 021908
endocytosisのモデルとして、球や円柱を膜が取り囲む際の相図を計算した論文。この膜は自発曲率が正の成分と負の成分の2種類で構成されていて、これらがうまくカップリングすると球や円柱が取り込まれるようになる、というような話らしい。

S. S. Mansy and J. W. Szostak, "Thermostability of model protocell membranes", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105 (2008) 13351
model protocellという、脂肪酸やアルコールなんかから作ったベシクルの熱安定性に関する論文。もともとは紹介してもらった記事からリンクをたどってみつけたもの。いわゆるコアセルベート的なものを作ってみましょう、という試みです。昔、やはり脂肪酸からベシクルを作るというのを見た記憶があるが、「現在の生命体」のみでなく「過去の生命体」に目を向けるのも割と面白いと思う。ただ、問題はどうやって実際にこれが起きたか、を証明することだろうなぁとも思う。

Andreas Beck, A. D. Tsamaloukas, P. Jurcevic, and H. Heerklotz, "Additive Action of Two or More Solutes on Lipid Membranes", Langmuir 24 (2008) 8833
いくつかの両親媒性分子を添加した際の脂質膜の振る舞いを記述するためのモデルについての論文。特に、2種類の両親媒性分子を添加した際にこのモデルがどの程度適用できるかについて議論しており、複雑な系にもかかわらず自発曲率の変化で相転移が記述できることを示しているらしい。最近やっている研究に結構関わってる内容なので、後でじっくり読んだ方が良いかも。

D. C. Carrer, A. W. Schmidt, Hans-Joachim Knolker, and Petra Schwille, "Membrane Domain-Disrupting Effects of 4-Substitued Cholesterol Derivatives", Langmuir 24 (2008) 8807
脂質の面内相分離(いわゆる脂質ラフト)にある種のコレステロールを加えると相分離ドメインが壊れる、という実験の論文。もともと面内相分離でできるラフトドメインって、実際の生体内にある脂質ラフトと比較してものすごく大きいのだから、なぜ実際はもっと小さいのか?について考える必要があると思うのだけど、こういう余分な成分が原因なのかなぁと思いながらちょっと読んでみた。

D. Vella, "Floating Objects with Finite Resistance to Bending", Langmuir 24 (2008) 8701
細くて柔らかい円柱がどうやって浮くか?ということを理論的に解析した論文。要するに、アメンボの足がどうやって本体を支えるだけの浮力を得られるか?ということ。で、計算によると円柱の弾性と表面張力のバランスで決まる"elastocapillary length"程度の長さで浮力が最大になるらしい。で、実際にアメンボの足を調べてみると、まぁだいたいそれぐらい(実際は少し短い)になるらしい。

J. Whittenton, S. Harendra, R. Pitchumani, K. Mohanty, C. Vipulanandan, and S. Thevananther, "Evaluation of Asymmetric Liposomal Nanoparticles for Encapsulation of Polynucleotides", Langmuir 24 (2008) 8533
リン脂質で作ったwater in oilドロップレットから、内側にDNAの破片を詰め込んだベシクルを作成する、という実験の論文。ドラッグデリバリーをにらんでか、ベシクルの内側と外側の膜で逆の電荷を持つ脂質を用いて毒性を減らそうとかいう試みをしたりもしているが、作成効率はまだ低いらしい。

M. Negishi, H. Seto, M. Hase, and K. Yoshikawa, "How Does the Mobility of Phospholipid Molecules at a Water/Oil Interface Reflect the Viscosity of the Surrounding Oil?", Langmuir 24 (2008) 8431
知り合いの論文。先ほどと同じでwater in oilドロップレットをリン脂質で作るのだが、こんどはそれをそのまま実験に利用する。何をしたかというと、リン脂質に蛍光物質を混ぜておいて、それをレーザーで一部退色させる。で、それが回復する時間を調べて膜の拡散係数を調べましょう、ということを計測している。結論としては、拡散係数が水と油の粘性係数の和でスケールできるということを示していて、そのベキが-0.85になることについて議論している。

2008/09/11

J-PARC反射率計

私の職場であるKEKではJ-PARCという陽子加速器のプロジェクトに参加しています。
これは、陽子を光速近くまで加速して何かに衝突させ、その拍子にできる色々な粒子を実験に使いましょう、というプロジェクトです。
私が所属している部署では主に中性子散乱の装置建設を5台建設する予定になっていて、私は中性子反射率計という装置建設に参加することになっています。

で、昨日は各種の手続きが終わって初めて建設作業に参加してきました。
残念ながらカメラを持って行かなかったので作業の様子はここでは載せることができませんが、建設の進捗状況が http://bl16.blogspot.com/ で見れるようになってますので、興味がある方は覗いてみてください。
装置建設といっても、今のところ建屋を造るとかいった土木作業がメインなので、直接何かできることはほとんど無いのですが、とりあえず建設状況を実際に見ることができて大いに参考になりました。
本当に自分たちで手を動かしながら装置を作るのはまだもう少し先ですが、なるべく早く装置を完成させ、実験できるような状況にもっていきたいものです。