2009/08/14

位相問題

当ブログですが、いろんな人に「更新してない」と言われ続けてます。
みんな意外と見てるもんですね。
とりあえず、何事もなかったかのように更新したいと思います。

先日、久しぶりに論文チェックをしてたらタイミング良く面白そうな論文を発見しました。
Emil Wolf, "Solution of the Phase Problem in the Theory of Structure Determination of Crystals from X-Ray Diffraction Experiments", Phys. Rev. Lett. 103 (2009) 075501.

私が良く用いているX線や中性子線の実験では、試料で散乱されたビームを観測します。
これは、レントゲンのように通常我々が見ている「実空間」ではなく、「逆空間」とよばれる普通の世界とは違った空間での試料の様子を観察する、という手法です。
具体的には、実空間をフーリエ変換すると逆空間になるのですが、とにかく、こういった物の見方をすると(例えば街路樹のように)周期的に配列した物をうまく観測することができるのです。
ただし、「逆空間」から我々の住んでる世界である「実空間」へと戻してあげるのはなかなか困難な作業で、それを妨げている問題の一つが「位相問題」とよばれるものです。
これは、逆空間上のデータを実空間に戻す際に重要な位相と呼ばれる情報が観測不可能である、という問題で、これが分かれば実空間へと戻してあげることが非常に簡単になるのです。

この論文では、その「位相問題」を解決するためにレーザーのように波の山と谷がそろった"coherent"なビームを使えば何とかなりそうですよ、という手法を紹介しています。
要するに、ビームの位相が揃ってれば、逆空間での位相も定まるんじゃない?、というのが話のエッセンスのようです。
同僚の話によると、coherentなビームを使えば位相問題の解決につながるというのは昔から言われていることらしいので、この論文のどういった部分が革新的なのかはちゃんとフォローできてませんが、多分、具体的な実験方法を提案していることが新しいのだと思います。
まぁ、提案だけで実際のデータは無いのですが、「このテーマはちゃんと勉強しなきゃな」と久しぶりに思えた論文でした。

しかし、X線にしても中性子線にしても結局行き着くところは「光学」で、よく考えたら自分はちゃんとそれをまじめに勉強したことが無いのです。
ニュートンの時代に完成された古い学問ということもあって分かった気になってますが、基礎的なもの、最先端のものを含め、もっと光学を勉強しなきゃいけませんね。
反省。