2009/02/17

湿度制御セル


昨日から、東海村で東京大学物性研究所の装置iNSEを使って実験中です。

今回の実験では、KEKの瀬戸教授が発注して作った湿度制御セルを初めて試しています。
このセルは試料の温度と湿度制御用の水溜めの温度を別々に制御することで湿度調整を行う、というもので、海外では割と広く使われているらしいです。
ただ、日本ではあまり使っている人が居ないみたいで、今回のセルもフランスの研究所のデッドコピーのような形で作成しました。
いろんな人に配線等、お世話になりながら何とか立ち上げ、ちょっとよく分からないながらもどうにか実験にこぎ着けました。
これがうまくいくと色々と実験の幅が広がるので、結果が楽しみです。

2009/02/10

論文受理

また更新が滞ってますね…

今日は、とりあえず論文が受理されました。
Phys. Rev. Lett.誌に投稿し、refereeが2人ついたのですが、片方はダメ、もう片方はOKというパターンでした。
この時点で、editorは「Phys. Rev. Eに格下げして審査を続けた方が良い」という判断を下したのですが、ダメという方もあまり本質的なコメントではないし、何か別の部分でごねてる(競合相手?)ような気がしたので、食い下がってPRLに再投稿することにしました。
が、結局refereeを変える/加えるといったこともなく「Phys. Rev. Eならこのまま載せる」という結果でした。
とりあえず、論文が受理されたことはめでたいですが、ちょっと微妙な気分です…
割と行けると思う仕事だったのになぁ。
やっぱ、refereeとのバトルは難しいですね。

まぁ、次がんばります。

2008/12/17

水平型中性子反射率計@J-PARC


以前にもご紹介したとおり、J-PARCの中性子反射率計という装置建設に携わっております。
そのJ-PARCですが、12/23より供用が開始されまして、中性子反射率計もついに本格的な測定を開始いたしました(写真は測定の様子)。
ビームは3日間で、中性子ビームの出力も当初の予定の1/5でしたが、各種アライメントを行うと共に、無事初データを測定することに成功しました。
また、これまでKEKでは観測できなかった試料の測定にも成功しています。
私もこの実験に3日間立ち会いましたが、予想以上の高性能化に驚くことがしばしばでした。
これからも、より高度な測定を行えるよう様々な改良を加えていく予定ですし、これを用いた面白い実験もそろそろ考え始めています。
う~ん、今後が楽しみですね。

最後に、本格的な建設開始からわずか数ヶ月でここまでこぎ着けたというのは、まさに装置責任者である鳥飼准教授の努力のたまものだと思います。
私も(微力ながら)これに携わってきましたが、本当に頭が下がります。
来年も色々な仕事が目白押しですが、少しでもサポートできるようがんばって行かなきゃ!
そう心に誓いながら(多分)今年最後の更新を終えたいと思います。

それではみなさん良いお年を。

stopped-flow実験@SPring8


12/10,11とSPring8へ実験に行ってきました。今回は、京都大学薬学部の中野准教授との共同研究で、Stopped-flowセルを用いた時分割のX線小角散乱実験を行いました。これまで、リン脂質を用いた実験をメインに行ってきましたが、これでいよいよタンパク質デビュー(?)を果たしたことになります。試料が貴重ということもあり、これまでの実験より色々と気を遣いますが、より実際の生体に近い現象を取り扱うわけですから、当然と言えば当然かもしれません。まだ本格的なデータ解析をしてませんが、うまくいってるといいなぁ。

全然関係ないですが、今回の実験で今年の科研費は使い切ってしまいました。残り3ヶ月、慎ましやかに生きていこうと思います。

2008/11/24

勝手に論文紹介(9,10月分)

すみません。更新さぼってました。
もう少し暇を見つけて更新しないとなぁ…

そういうわけでたまっていた論文紹介です。


Sanoop Ramachandran, P. B. Sunil Kumar, and Mohamed Laradji, "Lipid flip-flop driven mechanical and morphological changes in model membranes", J. Chem. Phys. 129 (2008) 125104.
リン脂質二重膜のシミュレーションに関する論文。膜の表と裏で分子が入れ替わるflip-flop現象の効果を調べている。この論文によると、表→裏と裏→表でflip-flopのしやすさが違う場合に膜から新たな小胞が形成されるbuddingが起きるらしい。

Yukiko Suganuma, Naohito Urakami, Rina Mawatari, Shigeyuki Komura, Kaori Nakaya-Yaegashi, and Masayuki Imai, "Lamellar to micelle transition of nonionic surfactant assemblies induced by addition of colloidal particles", J. Chem. Phys., 129 (2008) 134903.
非イオン性界面活性剤がつくる二分子膜のラメラ構造にコロイド粒子を添加した際の構造変化を調べた論文。粒子の濃度が低いと膜の間に粒子が入るが、濃度が増えるとコロイド粒子が膜の揺らぎを阻害することによりエネルギーロスが大きくなり、ミセルへと転移する。

Xiaozhong Qu, Leila Omar, Thi Bich Hang Le, Laurence Tetley, Katherine Bolton, Kar Wai Chooi, Wei Wang, and Ijeoma F. Uchegbu, "Polymeric Amphiphile Branching Leads to Rare Nanodisc Shaped Planar Self-Assemblies"
様々な種類の両親媒性ポリマーとコレステロールを混合した際に形成される自己組織膜をcryo-TEMで調べた論文。親水部の大きさを小さくしていくと、単層膜ベシクルからdisk構造へと転移することを明らかにしている。

M. L. Henle, R. McGorty, A. B. Schofield, A. D. Dinsmore, and A. J. Levine, "The effect of curvature and topology on membrane hydrodynamics", Europhys. Lett. 84 (2008) 48001.
油中水滴の表面をコートしたビーズやロッドの動きを理論、実験両面から調べた論文。油と水の速さの違いによって水滴表面の流れが阻害されることを示している(界面が平面だとこの現象は起きないらしい)。

Ryugo Tero, Toru Ujihara, and Tsuneo Urisu, "Lipid Bilayer Membrane with Atomic Step Structure: Supported Bilayer on a Step-and-Terrace TiO2(100) Surface", Langmuir 24 (2008) 11567.
酸化チタンの表面に形成されるテラス構造の上に作成したリン脂質の単層膜(支持膜)を原子間力顕微鏡で調べた論文。支持膜の凹凸が酸化チタンの表面構造をそのまま反映するため、リン脂質をいくつか混ぜるとその凹凸によって面内相分離が形成されるらしい。

S. Kundu, D. Langevin, and L.-T. Lee, "Neutron Reflectivity Study of the Complexation of DNA with Lipids and Surfactants at the Surface of Water", Langmuir 24 (2008) 12347.
気液界面に作成したリン脂質のLangmuir膜とDNAの相互作用を調べた論文。Ca2+イオンなどを加えて膜が圧縮された状態の方がDNAとの結合が強くなるとある。あと、カチオン性の界面活性剤を入れると結合が強くなるともある。単に電荷の問題か?

Matthew Roark and Scott E. Feller, "Structure and Dynamics of a Fluid Phase Bilayer on a Solid Support as Observed by a Molecular Dynamics Computer Simulation", Langmuir 24 (2008) 12469.
MDシミュレーションで基板上のリン脂質膜について水和の効果を調べた論文。水和の量を変えたときに親水部の水和量、水の配向等が変化する様子を議論している。

Tsumoru Shintake, "Possibility of single biomolecule imaging with coherent amplification of weak scattering x-ray photons", Phys. Rev. E 78 (2008) 041906.
X線で生体分子の単分子観測を行うためのアイディアに関する論文。観測した異分子に金のナノ粒子をつけることにより、金粒子と観測分子の間の干渉をとらえよう、ということだと思う。

Yunfen He, Pei I. Ku, J. R. Knab, J. Y. Chen, and A. G. Markelz, "Protein Dynamical Transition Does Not Require Protein Structure", Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 178103.
テラヘルツ分光でタンパク質のダイナミクスを調べた論文。200K付近でタンパク質の動きが急に激しくなるのだが、それが側鎖と溶媒の相互作用によることを明らかにした、ということらしい。

2008/09/15

勝手に論文紹介(8月分)

もうすぐ秋分の日ですね。
というわけで、秋の夜長に論文紹介でもいかがでしょうか?

O. M. Tanchak, K. G. Yager, H. Fritzsche, T. Harroun, J. Katsaras, and C. J. Barrett,"Ion distribution in multilayers of weak polyelectrolytes: A neutron reflectometry study", J. Chem. Phys. 129 (2008) 084901
正に帯電したポリマーと負に帯電したポリマーの水溶液に交互に浸して積層した"polyelectrolyte multilayers"(PEMs)中のイオンと水の分布を中性子反射率計で測定した実験に関する論文。PEMsを塩を含む溶液に浸すと基板、およびフィルムの最表面にイオンが偏在するらしい。ただ、素人にとっては割と簡単な操作で多層膜を作ることができるってことが意外に感じた。共に親水性なのにフィルムは剥がれないんだろうか?

W. Beziel, G. Fragneto, F. Cousin, and M. Sferrazza, "Neutron reflectivity study of the kinetics of polymer-polymer interface formation", Phys. Rev. E 78 (2008) 022801
またもや中性子反射率計を用いた実験で、こちらは異種のポリマー同士が接した界面がどのように平衡に近づくのか、そのkinetic processを調べた論文。2種類のポリマーの相互作用パラメータを変えながら実験し、相分離が弱いときにcapillary waveで説明できるような相互拡散のモードが観測された、ということらしい。

S. A. Nowak and T. Chou, "Membrane lipid segregation in endocytosis", Phys. Ref. E 78 (2008) 021908
endocytosisのモデルとして、球や円柱を膜が取り囲む際の相図を計算した論文。この膜は自発曲率が正の成分と負の成分の2種類で構成されていて、これらがうまくカップリングすると球や円柱が取り込まれるようになる、というような話らしい。

S. S. Mansy and J. W. Szostak, "Thermostability of model protocell membranes", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105 (2008) 13351
model protocellという、脂肪酸やアルコールなんかから作ったベシクルの熱安定性に関する論文。もともとは紹介してもらった記事からリンクをたどってみつけたもの。いわゆるコアセルベート的なものを作ってみましょう、という試みです。昔、やはり脂肪酸からベシクルを作るというのを見た記憶があるが、「現在の生命体」のみでなく「過去の生命体」に目を向けるのも割と面白いと思う。ただ、問題はどうやって実際にこれが起きたか、を証明することだろうなぁとも思う。

Andreas Beck, A. D. Tsamaloukas, P. Jurcevic, and H. Heerklotz, "Additive Action of Two or More Solutes on Lipid Membranes", Langmuir 24 (2008) 8833
いくつかの両親媒性分子を添加した際の脂質膜の振る舞いを記述するためのモデルについての論文。特に、2種類の両親媒性分子を添加した際にこのモデルがどの程度適用できるかについて議論しており、複雑な系にもかかわらず自発曲率の変化で相転移が記述できることを示しているらしい。最近やっている研究に結構関わってる内容なので、後でじっくり読んだ方が良いかも。

D. C. Carrer, A. W. Schmidt, Hans-Joachim Knolker, and Petra Schwille, "Membrane Domain-Disrupting Effects of 4-Substitued Cholesterol Derivatives", Langmuir 24 (2008) 8807
脂質の面内相分離(いわゆる脂質ラフト)にある種のコレステロールを加えると相分離ドメインが壊れる、という実験の論文。もともと面内相分離でできるラフトドメインって、実際の生体内にある脂質ラフトと比較してものすごく大きいのだから、なぜ実際はもっと小さいのか?について考える必要があると思うのだけど、こういう余分な成分が原因なのかなぁと思いながらちょっと読んでみた。

D. Vella, "Floating Objects with Finite Resistance to Bending", Langmuir 24 (2008) 8701
細くて柔らかい円柱がどうやって浮くか?ということを理論的に解析した論文。要するに、アメンボの足がどうやって本体を支えるだけの浮力を得られるか?ということ。で、計算によると円柱の弾性と表面張力のバランスで決まる"elastocapillary length"程度の長さで浮力が最大になるらしい。で、実際にアメンボの足を調べてみると、まぁだいたいそれぐらい(実際は少し短い)になるらしい。

J. Whittenton, S. Harendra, R. Pitchumani, K. Mohanty, C. Vipulanandan, and S. Thevananther, "Evaluation of Asymmetric Liposomal Nanoparticles for Encapsulation of Polynucleotides", Langmuir 24 (2008) 8533
リン脂質で作ったwater in oilドロップレットから、内側にDNAの破片を詰め込んだベシクルを作成する、という実験の論文。ドラッグデリバリーをにらんでか、ベシクルの内側と外側の膜で逆の電荷を持つ脂質を用いて毒性を減らそうとかいう試みをしたりもしているが、作成効率はまだ低いらしい。

M. Negishi, H. Seto, M. Hase, and K. Yoshikawa, "How Does the Mobility of Phospholipid Molecules at a Water/Oil Interface Reflect the Viscosity of the Surrounding Oil?", Langmuir 24 (2008) 8431
知り合いの論文。先ほどと同じでwater in oilドロップレットをリン脂質で作るのだが、こんどはそれをそのまま実験に利用する。何をしたかというと、リン脂質に蛍光物質を混ぜておいて、それをレーザーで一部退色させる。で、それが回復する時間を調べて膜の拡散係数を調べましょう、ということを計測している。結論としては、拡散係数が水と油の粘性係数の和でスケールできるということを示していて、そのベキが-0.85になることについて議論している。

2008/09/11

J-PARC反射率計

私の職場であるKEKではJ-PARCという陽子加速器のプロジェクトに参加しています。
これは、陽子を光速近くまで加速して何かに衝突させ、その拍子にできる色々な粒子を実験に使いましょう、というプロジェクトです。
私が所属している部署では主に中性子散乱の装置建設を5台建設する予定になっていて、私は中性子反射率計という装置建設に参加することになっています。

で、昨日は各種の手続きが終わって初めて建設作業に参加してきました。
残念ながらカメラを持って行かなかったので作業の様子はここでは載せることができませんが、建設の進捗状況が http://bl16.blogspot.com/ で見れるようになってますので、興味がある方は覗いてみてください。
装置建設といっても、今のところ建屋を造るとかいった土木作業がメインなので、直接何かできることはほとんど無いのですが、とりあえず建設状況を実際に見ることができて大いに参考になりました。
本当に自分たちで手を動かしながら装置を作るのはまだもう少し先ですが、なるべく早く装置を完成させ、実験できるような状況にもっていきたいものです。