2008/12/17

水平型中性子反射率計@J-PARC


以前にもご紹介したとおり、J-PARCの中性子反射率計という装置建設に携わっております。
そのJ-PARCですが、12/23より供用が開始されまして、中性子反射率計もついに本格的な測定を開始いたしました(写真は測定の様子)。
ビームは3日間で、中性子ビームの出力も当初の予定の1/5でしたが、各種アライメントを行うと共に、無事初データを測定することに成功しました。
また、これまでKEKでは観測できなかった試料の測定にも成功しています。
私もこの実験に3日間立ち会いましたが、予想以上の高性能化に驚くことがしばしばでした。
これからも、より高度な測定を行えるよう様々な改良を加えていく予定ですし、これを用いた面白い実験もそろそろ考え始めています。
う~ん、今後が楽しみですね。

最後に、本格的な建設開始からわずか数ヶ月でここまでこぎ着けたというのは、まさに装置責任者である鳥飼准教授の努力のたまものだと思います。
私も(微力ながら)これに携わってきましたが、本当に頭が下がります。
来年も色々な仕事が目白押しですが、少しでもサポートできるようがんばって行かなきゃ!
そう心に誓いながら(多分)今年最後の更新を終えたいと思います。

それではみなさん良いお年を。

stopped-flow実験@SPring8


12/10,11とSPring8へ実験に行ってきました。今回は、京都大学薬学部の中野准教授との共同研究で、Stopped-flowセルを用いた時分割のX線小角散乱実験を行いました。これまで、リン脂質を用いた実験をメインに行ってきましたが、これでいよいよタンパク質デビュー(?)を果たしたことになります。試料が貴重ということもあり、これまでの実験より色々と気を遣いますが、より実際の生体に近い現象を取り扱うわけですから、当然と言えば当然かもしれません。まだ本格的なデータ解析をしてませんが、うまくいってるといいなぁ。

全然関係ないですが、今回の実験で今年の科研費は使い切ってしまいました。残り3ヶ月、慎ましやかに生きていこうと思います。

2008/11/24

勝手に論文紹介(9,10月分)

すみません。更新さぼってました。
もう少し暇を見つけて更新しないとなぁ…

そういうわけでたまっていた論文紹介です。


Sanoop Ramachandran, P. B. Sunil Kumar, and Mohamed Laradji, "Lipid flip-flop driven mechanical and morphological changes in model membranes", J. Chem. Phys. 129 (2008) 125104.
リン脂質二重膜のシミュレーションに関する論文。膜の表と裏で分子が入れ替わるflip-flop現象の効果を調べている。この論文によると、表→裏と裏→表でflip-flopのしやすさが違う場合に膜から新たな小胞が形成されるbuddingが起きるらしい。

Yukiko Suganuma, Naohito Urakami, Rina Mawatari, Shigeyuki Komura, Kaori Nakaya-Yaegashi, and Masayuki Imai, "Lamellar to micelle transition of nonionic surfactant assemblies induced by addition of colloidal particles", J. Chem. Phys., 129 (2008) 134903.
非イオン性界面活性剤がつくる二分子膜のラメラ構造にコロイド粒子を添加した際の構造変化を調べた論文。粒子の濃度が低いと膜の間に粒子が入るが、濃度が増えるとコロイド粒子が膜の揺らぎを阻害することによりエネルギーロスが大きくなり、ミセルへと転移する。

Xiaozhong Qu, Leila Omar, Thi Bich Hang Le, Laurence Tetley, Katherine Bolton, Kar Wai Chooi, Wei Wang, and Ijeoma F. Uchegbu, "Polymeric Amphiphile Branching Leads to Rare Nanodisc Shaped Planar Self-Assemblies"
様々な種類の両親媒性ポリマーとコレステロールを混合した際に形成される自己組織膜をcryo-TEMで調べた論文。親水部の大きさを小さくしていくと、単層膜ベシクルからdisk構造へと転移することを明らかにしている。

M. L. Henle, R. McGorty, A. B. Schofield, A. D. Dinsmore, and A. J. Levine, "The effect of curvature and topology on membrane hydrodynamics", Europhys. Lett. 84 (2008) 48001.
油中水滴の表面をコートしたビーズやロッドの動きを理論、実験両面から調べた論文。油と水の速さの違いによって水滴表面の流れが阻害されることを示している(界面が平面だとこの現象は起きないらしい)。

Ryugo Tero, Toru Ujihara, and Tsuneo Urisu, "Lipid Bilayer Membrane with Atomic Step Structure: Supported Bilayer on a Step-and-Terrace TiO2(100) Surface", Langmuir 24 (2008) 11567.
酸化チタンの表面に形成されるテラス構造の上に作成したリン脂質の単層膜(支持膜)を原子間力顕微鏡で調べた論文。支持膜の凹凸が酸化チタンの表面構造をそのまま反映するため、リン脂質をいくつか混ぜるとその凹凸によって面内相分離が形成されるらしい。

S. Kundu, D. Langevin, and L.-T. Lee, "Neutron Reflectivity Study of the Complexation of DNA with Lipids and Surfactants at the Surface of Water", Langmuir 24 (2008) 12347.
気液界面に作成したリン脂質のLangmuir膜とDNAの相互作用を調べた論文。Ca2+イオンなどを加えて膜が圧縮された状態の方がDNAとの結合が強くなるとある。あと、カチオン性の界面活性剤を入れると結合が強くなるともある。単に電荷の問題か?

Matthew Roark and Scott E. Feller, "Structure and Dynamics of a Fluid Phase Bilayer on a Solid Support as Observed by a Molecular Dynamics Computer Simulation", Langmuir 24 (2008) 12469.
MDシミュレーションで基板上のリン脂質膜について水和の効果を調べた論文。水和の量を変えたときに親水部の水和量、水の配向等が変化する様子を議論している。

Tsumoru Shintake, "Possibility of single biomolecule imaging with coherent amplification of weak scattering x-ray photons", Phys. Rev. E 78 (2008) 041906.
X線で生体分子の単分子観測を行うためのアイディアに関する論文。観測した異分子に金のナノ粒子をつけることにより、金粒子と観測分子の間の干渉をとらえよう、ということだと思う。

Yunfen He, Pei I. Ku, J. R. Knab, J. Y. Chen, and A. G. Markelz, "Protein Dynamical Transition Does Not Require Protein Structure", Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 178103.
テラヘルツ分光でタンパク質のダイナミクスを調べた論文。200K付近でタンパク質の動きが急に激しくなるのだが、それが側鎖と溶媒の相互作用によることを明らかにした、ということらしい。

2008/09/15

勝手に論文紹介(8月分)

もうすぐ秋分の日ですね。
というわけで、秋の夜長に論文紹介でもいかがでしょうか?

O. M. Tanchak, K. G. Yager, H. Fritzsche, T. Harroun, J. Katsaras, and C. J. Barrett,"Ion distribution in multilayers of weak polyelectrolytes: A neutron reflectometry study", J. Chem. Phys. 129 (2008) 084901
正に帯電したポリマーと負に帯電したポリマーの水溶液に交互に浸して積層した"polyelectrolyte multilayers"(PEMs)中のイオンと水の分布を中性子反射率計で測定した実験に関する論文。PEMsを塩を含む溶液に浸すと基板、およびフィルムの最表面にイオンが偏在するらしい。ただ、素人にとっては割と簡単な操作で多層膜を作ることができるってことが意外に感じた。共に親水性なのにフィルムは剥がれないんだろうか?

W. Beziel, G. Fragneto, F. Cousin, and M. Sferrazza, "Neutron reflectivity study of the kinetics of polymer-polymer interface formation", Phys. Rev. E 78 (2008) 022801
またもや中性子反射率計を用いた実験で、こちらは異種のポリマー同士が接した界面がどのように平衡に近づくのか、そのkinetic processを調べた論文。2種類のポリマーの相互作用パラメータを変えながら実験し、相分離が弱いときにcapillary waveで説明できるような相互拡散のモードが観測された、ということらしい。

S. A. Nowak and T. Chou, "Membrane lipid segregation in endocytosis", Phys. Ref. E 78 (2008) 021908
endocytosisのモデルとして、球や円柱を膜が取り囲む際の相図を計算した論文。この膜は自発曲率が正の成分と負の成分の2種類で構成されていて、これらがうまくカップリングすると球や円柱が取り込まれるようになる、というような話らしい。

S. S. Mansy and J. W. Szostak, "Thermostability of model protocell membranes", Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105 (2008) 13351
model protocellという、脂肪酸やアルコールなんかから作ったベシクルの熱安定性に関する論文。もともとは紹介してもらった記事からリンクをたどってみつけたもの。いわゆるコアセルベート的なものを作ってみましょう、という試みです。昔、やはり脂肪酸からベシクルを作るというのを見た記憶があるが、「現在の生命体」のみでなく「過去の生命体」に目を向けるのも割と面白いと思う。ただ、問題はどうやって実際にこれが起きたか、を証明することだろうなぁとも思う。

Andreas Beck, A. D. Tsamaloukas, P. Jurcevic, and H. Heerklotz, "Additive Action of Two or More Solutes on Lipid Membranes", Langmuir 24 (2008) 8833
いくつかの両親媒性分子を添加した際の脂質膜の振る舞いを記述するためのモデルについての論文。特に、2種類の両親媒性分子を添加した際にこのモデルがどの程度適用できるかについて議論しており、複雑な系にもかかわらず自発曲率の変化で相転移が記述できることを示しているらしい。最近やっている研究に結構関わってる内容なので、後でじっくり読んだ方が良いかも。

D. C. Carrer, A. W. Schmidt, Hans-Joachim Knolker, and Petra Schwille, "Membrane Domain-Disrupting Effects of 4-Substitued Cholesterol Derivatives", Langmuir 24 (2008) 8807
脂質の面内相分離(いわゆる脂質ラフト)にある種のコレステロールを加えると相分離ドメインが壊れる、という実験の論文。もともと面内相分離でできるラフトドメインって、実際の生体内にある脂質ラフトと比較してものすごく大きいのだから、なぜ実際はもっと小さいのか?について考える必要があると思うのだけど、こういう余分な成分が原因なのかなぁと思いながらちょっと読んでみた。

D. Vella, "Floating Objects with Finite Resistance to Bending", Langmuir 24 (2008) 8701
細くて柔らかい円柱がどうやって浮くか?ということを理論的に解析した論文。要するに、アメンボの足がどうやって本体を支えるだけの浮力を得られるか?ということ。で、計算によると円柱の弾性と表面張力のバランスで決まる"elastocapillary length"程度の長さで浮力が最大になるらしい。で、実際にアメンボの足を調べてみると、まぁだいたいそれぐらい(実際は少し短い)になるらしい。

J. Whittenton, S. Harendra, R. Pitchumani, K. Mohanty, C. Vipulanandan, and S. Thevananther, "Evaluation of Asymmetric Liposomal Nanoparticles for Encapsulation of Polynucleotides", Langmuir 24 (2008) 8533
リン脂質で作ったwater in oilドロップレットから、内側にDNAの破片を詰め込んだベシクルを作成する、という実験の論文。ドラッグデリバリーをにらんでか、ベシクルの内側と外側の膜で逆の電荷を持つ脂質を用いて毒性を減らそうとかいう試みをしたりもしているが、作成効率はまだ低いらしい。

M. Negishi, H. Seto, M. Hase, and K. Yoshikawa, "How Does the Mobility of Phospholipid Molecules at a Water/Oil Interface Reflect the Viscosity of the Surrounding Oil?", Langmuir 24 (2008) 8431
知り合いの論文。先ほどと同じでwater in oilドロップレットをリン脂質で作るのだが、こんどはそれをそのまま実験に利用する。何をしたかというと、リン脂質に蛍光物質を混ぜておいて、それをレーザーで一部退色させる。で、それが回復する時間を調べて膜の拡散係数を調べましょう、ということを計測している。結論としては、拡散係数が水と油の粘性係数の和でスケールできるということを示していて、そのベキが-0.85になることについて議論している。

2008/09/11

J-PARC反射率計

私の職場であるKEKではJ-PARCという陽子加速器のプロジェクトに参加しています。
これは、陽子を光速近くまで加速して何かに衝突させ、その拍子にできる色々な粒子を実験に使いましょう、というプロジェクトです。
私が所属している部署では主に中性子散乱の装置建設を5台建設する予定になっていて、私は中性子反射率計という装置建設に参加することになっています。

で、昨日は各種の手続きが終わって初めて建設作業に参加してきました。
残念ながらカメラを持って行かなかったので作業の様子はここでは載せることができませんが、建設の進捗状況が http://bl16.blogspot.com/ で見れるようになってますので、興味がある方は覗いてみてください。
装置建設といっても、今のところ建屋を造るとかいった土木作業がメインなので、直接何かできることはほとんど無いのですが、とりあえず建設状況を実際に見ることができて大いに参考になりました。
本当に自分たちで手を動かしながら装置を作るのはまだもう少し先ですが、なるべく早く装置を完成させ、実験できるような状況にもっていきたいものです。

2008/08/14

勝手に論文紹介(7月分)

お盆ですね。
辞令と共にもらった雇用条件によると、僕の身分はお盆休みに関する項目がありません。
年末年始は休んでもよい、と書いてあるので、お盆に関する記載がないということは、お盆も休んではいけない、ということでしょうか。
がんばって出勤してますが、どうも身が入らないです…

そんなわけで、今月も論文紹介です。

J. OHKUBO, N. SHNERB, and D. A. KESSLER, "Transition Phenomena Induced by Internal Noise and Quasi-Absorbing State", J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 044002.
閉じた系での化学反応におけるノイズの効果を議論した論文。理論の論文なので深いところは全然追えないのだが、細胞のような微小空間における反応において、ちょっとした濃度分布によって生じる揺らぎが大きな影響を与える、ということらしい。

J. Suzuki, A. Takano, and Y. Matsushita, "Topological effect in ring polymers investigated with Monte Carlo simulation", J. Chem. Phys. 129 (2008) 034903.
環状高分子の長さNを変えた際の分子の広がりをモンテカルロシミュレーションで議論した論文。普通の鎖状高分子の場合はNの1/2乗に比例するのだが、環状高分子ではその形状の違いのため2/5乗に比例することが理論的に予言されていた。しかし、このシミュレーションによると2/5乗よりもさらに小さくなるのではないか、ということ結果が得られた。ちなみに、職場の同僚の論文です。

J. Swenson, F. Kargl, P. Berntsen, and C. Svanberg, "Solvent and lipid dynamics of hydrated lipid bilayers by incoherent quasielastic neutron scattering", J. Chem. Phys. 129 (2008) 045101.
Si基板の上に積層させたリン脂質膜の中性子準弾性散乱実験。リン脂質:水分子が1:9ぐらいのモル比で実験をして、それぞれのダイナミクスが温度に対してどのように変化するかを調べている。が、分解能とかの関係で一番見たかった運動の異方性についてはよくわかりませんでした、という話でした。準弾性散乱の実験について少し勉強してみようと思って落としたのだが、ちょっとがっかり。

S. Aranda, K. A. Riske, R. Lipowsky, and R. Dimova, "Morphological Transitions of Vesicles Induced by Alternating Electric Fields", Biophys. J.: Biophys. Lett., L19 (2008).
リン脂質ベシクルに交流電場を印加し、ベシクルを変形させるという実験に関する論文。周波数が低いとベシクルが球から電場方向へ伸びた回転楕円体へ変形するのだが、ベシクル内の電気伝導度が外よりも低いと逆に電場方向へ縮んだ回転楕円体へと変形するらしい。

H. C. Shum, D. Lee, I. Yoon, T. Kodger, and D. A. Weitz, "Double Emulsion Templated Monodisperse Phospholipid Vesicles", Langmuir 24 (2008) 7651.
最近流行のmicrofluidicsを使って大きくて均質なリン脂質ベシクルを作る、という論文。一度W/O/Wエマルションを作って溶媒を飛ばすのだが、内側の水相に物質を容易に封入させることも可能。毎秒500個程度のベシクルが作れるらしい。果たしてこのシステムを作るのがどれくらい簡単なのかが素人には分からないのだが、これを作れる簡単なキットとか売られるようになったら買うかも。

M. Nagao, H. Seto, "Concentration dependence of shape and structure fluctuations of droplet microemulsions investigated by neutron spin echo spectroscopy", Phys. Rev. E 78 (2008) 011507.
研究室の先輩の論文。中性子スピンエコー法を用いてマイクロエマルションのダイナミクスを観測するのだが、Relative Form Factorというのを用いてエマルションを構成する膜のダイナミクス[P(q,t)]とエマルション自身のダイナミクス[S(q,t)]を分離する、という話で、その結果S(q,t)に並進拡散以外のモードが乗っている、ということを示している。

S. R.-Vargas, R. B.-Rodriguez, A. M.-Molina, M. Q.-Perez, J. Estelrich, and J. C.-Fernandez, "Growth of lipid vesicle structures: From surface fractals to mass fractals", Phys. Rev. E 78 (2008) 010902(R).
ベシクルの凝集体のフラクタル構造に対する2価カチオンの効果を静的光散乱で観察した結果に関する論文。カルシウムイオンだとmass-fractal構造になるのに対し、マグネシウムイオンだと濃度に応じてsurface-fractalからmass-fractalへの転移が見られる。そして、これはカチオンの添加によって生じる脂質のdehydrationがベシクル間の短距離相互作用に効くため、ということらしい。

J. D. Sitt, A. Amador, F. Goller, and G. B. Mindlin, "Dynamical origin of spectrally rich vocalizations in birdsong", Phys. Rev. E 78 (2008) 011905.
錦華鳥という鳥の鳴き声を解析した実験に関する論文。どうも、鳥の鳴き声って人間やら何やらの発声に関するモデルとして取り扱われているらしい。内容としては、正直あまり分からなかったが、こういうことも研究されてるんだなぁと知ることができただけでとりあえずよしとしよう。

H. Jiang and T. R. Powers, "Curvature-Driven Lipid Sorting in a Membrane Tubule", Phys. Rev. Lett. 101 (2008) 018103.
リン脂質ベシクルを引っ張った際に形成されるチューブについて、複数の脂質を混合した際に相分離とどのようにカップルするか、ということに関する理論の論文。引っ張られることによって形成されるチューブともとのベシクルとの間で曲率が違うため、それによって脂質が相分離しますよ、ということを示している。

2008/08/08

久しぶりの原子炉

先週は久しぶりに東海村へ行って、原研にあるJRR-3という原子炉で実験しました。
JRR-3は学生時代から通っているので、もう7,8年はお世話になっている、ということになります。
特に、博士課程の2,3年の頃は半分ぐらい東海村に駐在していましたので、原子炉で実験していると知り合いにいっぱい会うことになります。
今回もご多分に漏れず色々な人と近況を報告し合ったりしたのですが、みなさん元気そうでなによりでした。

さて、今回は中性子小角散乱という実験と中性子スピンエコーという実験を掛け持ちでやってました。
厳密に言うとオーバーラップしていたのは1日か2日ぐらいでしたが、やっぱ同時に実験するというのはなかなかしんどいです。
特に、中性子小角散乱実験の方は数時間おきに顔を出して作業しなきゃいけない、という割とハードなスケジュールになっていて、しかもそれを昼夜関係なく一人でやろうというのだからなかなか大変なのです。
まぁ、さすがに夜はちょっと長めに測定時間をセットして寝る、という調整はしてるので何とか持ちこたえられますが、それでも疲れたなぁと毎日考えてた気がします。
数年前ならもう少し元気だったような気がするのですが…おかしいなぁ。

2008/07/21

バージョンアップ

東京大学物性研究所が所有しているNSE分光器(iNSE)のデータ解析プログラムESA2008をバージョンアップしました。
webページ(http://neutron-www.kek.jp/home/yamada/)からigorファイルとマニュアルがダウンロードできるようになっています。
今回は、バックグラウンドの処理を実装したので、散乱強度が弱いデータの質が改善すると期待できます。
ただ、実装に不具合が残っている可能性もありますので、もうしばらく様子を見た方がいいのかも。
あと、ついでにソースを少しだけ整理しました。
ていうか、今までが汚すぎたのですが。

あと、profileに獲得研究資金を加え、publication listを少しだけ変えました(in pressになっていたのを正式に記載)。

2008/07/17

Vista導入

たまには仕事から少し離れた話でも。

今年は科研費(若手B)を無事もらうことができたので、パソコンを新調しました。
Dynabook SS RX1ってやつで、128GBのSSD(シリコンメモリ)を搭載しているモデルです。
こいつにはWindows Vistaがのっているんですが、性能がそこそこということもあって、まぁ割とさくさくと動いてくれてます。
ただ、言われ尽くされていることかもしれませんが…やっぱりVistaくんは使いやすいとは言い難いです。

何で使いにくいのかなぁと自分なりに分析してみたりしたのですが、結論としては「すべてが60点」感じでしょうか。
新しく強化された機能自体は悪くないものだし、コンセプトも理解できるのですが、実装が不十分だったり、インターフェースがダメだったり。
そうなるとその機能自体が悪者のように感じてきて、ストレスが倍増。
そしてさらに細かいことが気になるようになる…の悪循環って感じです。

これは最近のソフト全般にいえることかもしれませんが、「余計なこと」を「勝手にされる」ってのが一番腹が立ちます。
昔はパソコンを使う、というとパソコンを服従させる、ことだったような気がするのですが、最近はパソコンに振り回されてる、と感じる機会が増えてるような気がします(もっとも、自分が勉強をサボっているせいかもしれませんが)。
まぁ、文句ばっかり言っても始まらないので、とりあえず手なずけられるようちょっとずつ努力していきたいと思います。

以上、とりとめのない雑記でした。

2008/07/14

勝手に論文紹介(6月分)

今月は少なめです。

G. Oukhaled, L.Bacri, J.Mathe, J. Pelta, and L. Auvray, "Effect of screening on the transport of polyelectrolytes through nanopores", Europhys. Lett. 82 (2008) 48003.
チャネルタンパクを脂質膜に埋め込み、電場をかけて荷電高分子(ここではdextran sulfate)を通す、という割とよくある実験。この研究の新しいところは、これまでの研究はほとんどが高い塩濃度、つまり電荷が十分に遮蔽される状態での実験だったのだけど、塩濃度を薄くしてDebye長がポアサイズよりも大きいような条件で実験するとどうなるか?ってことを調べたところらしい。で、結果としては高分子が十分長ければ、Debye長がポアより大きい場合に高分子が通らなくなる。まぁわかりやすい。

V. Kantsler, E. Segre and V. Steinberg, "Dynamics of interacting vesicles and rheology of vesicle suspension in shear flow", Europhys Lett. 82 (2008) 58005.
準希薄条件下にあるリン脂質ベシクルのずり流動場中におけるダイナミクスを調べた論文。これまでも孤立したベシクルで戦車のキャタピラみたいな回転運動などが報告されているが、ベシクル間に相互作用があると、長距離的な流体力学的効果によって流れに対する傾き角やベシクル自体の速度が振動するらしい。

I. Tucker, J. Penfold, R. K. Thomas, I. Grillo, J. G. Barker, and D. F. R. Mildner, "The Surface and Solution Properties of Dihexadecyl Dimethylammonium Bromide", Langmuir 24 (2008) 6509.
DHDABというイオン性界面活性剤(二本鎖のアンモニウム塩)の構造を調べた論文。似たような界面活性剤として鎖の長さが違うものが色々調べられているが、基本的に低濃度で多層膜ベシクルが、高濃度になるとラメラ相との共存状態になる、という感じ。で、この系で実験してみたところ低濃度で現れる多層膜ベシクルが二層膜なんじゃない?ってことがわかったとのこと。何か「二層」が選択的に形成されるってのにぱっと違和感を覚えるが、とりあえず実験データとしてはそういうことになってるっぽい。

A. J. Diaz, F. Albertorio, S. Daniel, and P. S. Cremer, "Double Cushions Preserve Transmembrane Protein Mobility in Supported Bilayer Systems", Langmuir 24 (2008) 6820.
基板上に作る脂質二重膜、いわゆる支持膜の作成法に関する論文。従来の方法だと、支持膜に膜貫通タンパク質を埋め込んだときに、面内での拡散がほとんど起きていない、という問題があったが、固体基板の上にタンパク質(支持膜に修飾するのとは別のもの)をひっつけてからPEGをのせるという二層構造にするとこれが改善される、ということらしい。

K. Zhang, X. Yu, L. Gao, Y. Chen, and Z. Yang, "Mesostructured Spheres of Organic/Inorganic Hybrid from Gelable Block Copolymers and Arched Nano-objects Thereof", Langmuir 24 (2008) 6542.
ゲル化するブロック共重合体PTEMPM-b-PSってのをエアロゾルするとonion-likeな多層膜やシリンダーのような内部構造ができるらしい。で、これを破壊するとナノサイズのプレートやロッドができますよ、って話らしい。

S. A. Pandit, S.-W. Chiu, E. Jakobsson, A. Grama, and H. L. Scott, "Cholesterol Packing around Lipids with Saturated and Unsaturated Chains: A Simulation Study", Langmuir 24 (2008) 6858.
生体膜につきもののコレステロールがリン脂質膜に与える影響を分子レベルで理解しようと、MDシミュレーションを行った研究。DPPC,DOPC,POPCというリン脂質との混合系でシミュレーションしたところ、POPCとの混合系でコレステロールの占有体積が一番小さくなることがわかった。で、これが実際のコレステロールの構造と比較してなぜそうなるのか?ってことを議論しているっぽい。

2008/06/14

勝手に論文紹介(5月分)

更新頻度が低い、面白くない、と評判の当ブログですが、基本的に仕事関係のことしか書かないというコンセプトなので、なかなか変なことが書きづらいのです。とはいえ、少し反省したので、もうすこし面白いこと書くように努力します。

で、ちょっと遅れましたが毎月恒例の面白くない論文紹介です。

L. Barbosa-Barros, A. de la Maza, J. Estelrich, A. M. Linares, M. Feliz, P. Walther, R. Pons, and O. Lopez, "Penetration and Growth of DPPC/DHPC Bicelles Inside the Stratum Corneum of the Skin", Langmuir 24 (2008) 5700-5706.
最近、自分が主に取り扱っているbicelleと呼ばれる平板ミセルをskin treatmentに用いよう、という動きがあるらしく、それに対する基礎研究として皮膚の角質層にbicelleが浸透する様子をcryo-SEMで観察した研究。とりあえず、角質層とは独立にbicelleを希釈するとvesicleになった、という結果も興味深いのだが、角質層に入れてもvesicleになる、というのもおもしろそうな感じがする。似たようなものを取り扱うにしても、人によって色々な見方をするものだなぁ。

A. K. Jha, J. Lee, A. Tripathi, and A. Bose, "Three-Dimensional Confinement-Related Size Changes to Mixed-Surfactant Vesicles", Langumuir 24 (2008) 6013-6017.
2種類の界面活性剤を混ぜるとできるvesicleを、closed-packしたポリスチレンビーズの隙間に入れるとどのように構造変化するのか?というのを中性子小角散乱で調べた研究。自由体積の減少に伴う構造変化は両親媒性分子の自己組織化構造に強く影響するはずなのだけれど、それを調べた研究は少ない、というのが動機らしい。考え方自体はおもしろそうだと思うのだが、実験結果の解析が何かすごく怪しいなぁという感じでイマイチ信用できないのが残念。

A. Ghosh and J. Dey, "Effect of Hydrogen Bonding on the Physicochemical Properties and Bilayer Self-Assembly Formation of N-(2-Hydroxydodecyl)-L-alanine in Aqueous Solution", Langmuir 24 (2008) 6018-6026.
両親媒性分子間に生じる水素結合のように短距離的な引力が二分子膜構造の安定化に寄与している、という話が最近もちあがっているらしく、その効果を調べるために普通の両親媒性分子(C12Ala)と、水素を1つだけOHに置換した分子(C12HAla)とで構造の比較を行った研究。C12Alaがミセルとして安定化するのに対し、C12HAlaは球状ベシクルやチューブ等、二分子膜を基本とした構造を形成するということで、水素結合の効果が現れてますよ、ということみたい。今まで両親媒性分子間の短距離力に気をつけたことはなかったのだけど、言われてみれば確かにそうかも。なるほどねぇ。

D. Li, J. R. Dunlap, and B. Zhao, "Thermosensitive Water-Dispersible Hairy Particle-Supported Pd Nanoparticles for Catalysis of Hydrogenation in an Aqueous/Organic Biphasic System", Langmuir 24 (2008) 5911-5918.
化学反応の触媒として有効なナノ粒子だが、凝集しやすいので、うまいこと表面積を増やすために色々な方法が模索されているらしい。この論文ではpoly(t-butyl acrylate)(PtBA)という粒子にポリマーのブラシをコートした後、Pdのナノ粒子をPtBAに埋め込むことで触媒作用がある粒子ができないか、という試みをしている。実際に作成した触媒粒子だが、温度によってブラシが伸びたり縮んだりするため、相転移温度を境に反応速度が変化するらしい。

E. Rakhmatullina and W. Meier, "Solid-Supported Block Copolymer Membranes through Interfacial Adsorption of Charged Block Copolymer Vesicles", Langmuir 24 (2008) 6254-6261.
ABAブロックコポリマー(A:親水,B:疎水)が水中で作るベシクルを基板表面に落とし、基板にバイオセンサーになるようなポリマーの膜を作ろう、という研究。HOPGという疎水性の膜にベシクルを落とすとうまいこと膜はできるのだが、乾燥させると膜が壊れてしまう。一方、SiO2やmicaのような親水性の基板だとうまいこと膜を作るだけでなく、乾燥後も安定に存在できるらしい。これらの違いは基板表面にひっついた際の親水部、疎水部の配置の違いによるものだ、ということみたい。

Y. C. Jung and B. Bhushan, "Dynamic Effects of Bouncing Water Droplets on Superhydrophobic Surfaces", Langmuir 24 (2008) 6262-6269.
超撥水表面に水滴を落とすと水がバウンドする、というのはよく知られた現象なのだが、落とした速度によっては撥水表面が本来持っている撥水性(ぬれ角)が悪くなるらしい。ちゃんと読んでないのだけれど、すごく早く落としてしまうと加工した表面の溝(これが撥水性のポイント)に水が入り込んでしまい、ぬれ角が減少するのだろう、ということみたい。まぁ、言われてみれば当たり前な気もする。

L. Wang, K. J. Mutch, J. Eastoe, R. K. Heenan, and Jinfeng Dong, "Nanoemulsions Prepared by a Two-Step Low-Energy Process", Langmuir 24 (2008) 6092-6099.
普通に水・油・界面活性剤を混ぜるとマイクロエマルションができますが、最終的な組成が同じでも、一度別の組成で安定させてから作るとナノエマルションってのができることがあるらしい。で、この論文によると、ナノエマルションはいったん別の組成で安定させた際の構造によって、できあがる構造が変化するらしい。試料の調整方法によって構造が変わるというのはよくある話なのだが、まだまだちゃんとわかってないまま放ってあることってのはたくさんあるんだろうなぁ。

M. H. M. Leung, H. Colangelo, and T. W. Kee, "Encapsulation of Curcumin in Cationic Micelles Suppresses Alkaline Hydrolysis", Langmuir 24 (2008) 5672-5675.
クルコミンというウコンの有効成分をミセルの中に閉じ込めて、それが水の中に乖離していく様子を蛍光で調べた論文。で、結果としてはCTABやDTABといった陽イオン性の界面活性剤を用いるとクルコミンはあまり乖離せず、SDSのような陰イオン性の界面活性剤を用いるとクルコミンは効率的に水へと乖離していったらしい。実はクルコミンってのは3価の陰イオンなので、陰イオン性の界面活性剤からは率先的に飛び出します、という当たり前な結果みたい。

S. A. Akimov, V. A. J. Frolov, P. I. Kuzmin, J. Zimmerberg, Y. A. Chizmadzhev, and F. S. Cohen, "Domain formation in membranes caused by lipid wetting of protein", PRE 77 (2008) 051901.
生体膜内に存在するタンパク質が密集したドメイン(いわゆる脂質ラフト)について、脂質によるタンパク質のwettingとして取り扱うことでラフトの形成メカニズムを理論的に考察した論文。理論なので全然読んでないのですが、脂質ドメインの膜厚や弾性係数といったパラメータからドメインサイズを計算することができ、それが実際の脂質ラフトのサイズとだいたい一致(直径数十nm)している、ということらしい。

J. Pan, T. T. Mills, S. T. Nagle, and J. F. Nagle, "Cholesterol Perturbs Lipid Bilayers Nonuniversally", PRL 100 (2008) 198103.
このグループはX線小角散乱を使った脂質膜の構造解析に命をかけてて、今回はコレステロールの効果に着目してる様子。具体的には、いくつかの種類の脂質にコレステロールを加えていき、コレステロールの量に対して曲げ弾性、炭化水素差の秩序、膜厚がどのように変化するかを観察してる。炭化水素鎖に二重結合があるかないかで振る舞いが変わる、という結論なのだけど、何か安直な気がする。

2008/05/04

勝手に論文紹介(4月分)

今月も懲りずに需要があるのかひたすら怪しい論文紹介をします。まぁ、こういう機会がないとダウンロードしただけで満足してしまい全く読まないので、自分にとってはちょうどよいのでしょう。きっと。でも、ちゃんとは読んでないので、間違っててもご容赦ください。

J. Fan, M. Sammalkorpi, and M. Haataja, "Domain Formation in the Plasma Membrane: Roles of Nonequilibrium Lipid Transport and Membrane Proteins", PRL 100 (2008) 178102.
いわゆる「脂質ラフト」に関するシミュレーションの論文。それだけなら特に珍しくはないのだが、ラフトに埋め込まれた膜タンパクを考慮した結果、膜タンパクのクラスターができていくっぽいよ、というのを提案している。

L. Brun, M. Pastoriza-Gallego, G. Oukhaled, J. Mathe, L. Bacri, L. Auvray, and J. Pelta, "Dynamics of Polyelectrolyte Transport through a Protein Channel as a Function of Applied Voltage", PRL 100 (2008) 158302.
印加電圧によって荷電高分子がチャネルタンパクを埋め込んだ脂質膜を透過する様子を観測した論文。透過する高分子の数やポアを透過するのに必要な時間は印加電圧に依存する。DNAを透過させる論文は割とよく見るのだが、高分子を用いたのは知らない。DNAと太さが違うので若干振る舞いが変わってるということだったが、おそらくstiffnessも効いているのではないかと思う。

F. Campelo and A. Hernandez-Machado, "Polymer-Induced Tubulation in Lipid Vesicles" PRL 100 (2008) 158103.
以前、リン脂質ベシクルに両親媒性ポリマーをアンカーすると、"Tubulation"(アメーバみたいにチューブが伸びていく)という現象が起きる、という報告[I. Tsafrir et al., PRL 91 (2003) 138102]があったらしいのだが、それについて理論的に考察した論文。理論より実験に興味あるのだけど、動画とか落ちてないだろうか。

P. Riello, M. Mattiazzi, J. S. Pedersen, and A. Benedetti, "Time-Resolved in Situ Small-Angle X-ray Scattering Study of Silica Particle Formation in Nonionic Water-in-Oil Microemulsions", Langmuir 24 (2008) 5225-5228.
W/Oエマルションを利用したシリカゲル粒子の作成におけるシリカゲルの形成過程を時分割X線小角散乱で観測した論文。何となく興味があったので落としてみたのだが、ちゃんと読んでいないこともあってどの辺が特筆すべき点なのかよくわからなかった。

D. M. Spori, T. Drobek, S. Zurcher, M. Ochsner, C. Sprecher, A. Muhlebach, and N. D. Spencer, "Beyond the Lotus Effect: Roughness Influences on Wetting over a Wide Surface-Energy Range", Langmuir 24 (2008) 5411-5417.
ロータス効果(複雑な表面による撥水効果)を表面形状に対して定量的に調べた論文。golf-tee shaped micropillars (GTMs)って形状だとpinning効果が効いて親水的な成分があっても疎水的に働くらしい。

J. M. D. Lane, M. Chandross, M. J. Stevens, and G. S. Grest, "Water in Nanoconfinement between Hydrophilic Self-Assembled Monolayers", Langmuir 24 (2008) 5209-5212.
S(CH2)8COOHにnmスケールで取り囲まれた水分子の振る舞いをMDシミュレーションした論文。親水性のCOOH末端に近い水分子ほど配向し、拡散係数も減少する、という当たり前といえば当たり前の結論。

T. M. Weiss, T. Narayanan, and M. Gradzielski, "Dynamics of Spontaneous Vesicle Formation in Fluorocarbon and Hydrocarbon Surfactant Mixtures", Langmuir 24 (2008) 3759-3766.
多成分の界面活性剤混合系で形成されるSmall Uni-lamellar Vesicle(SUV)の形成過程を時分割X線小角散乱で観測した論文。最初は球状、もしくは紐状だったミセルが混じり合うと板状のミセルを形成、それが成長してある程度の大きさになるとSUVへと転移するらしい。大きくなると曲がりやすくなるので縁によるエネルギーロスを減らす方向に転移が進む、という理解でよいのだと思う。

2008/04/25

笹川科学研究助成 研究奨励の会

笹川科学研究助成という若手研究者(大学院生含む)を対象とした研究助成金があります。日本科学協会というところがこの事業を展開しているのですが、昨年度申請した研究課題が運良く採択されまして、今日は赤坂のホテルで助成金の説明会と、それに付随したセレモニーに出席してきました。
相変わらず複雑な東京の地下鉄を何とかクリアし、ホテルに着いたのもつかの間、入ったフロアが何階なのかもよくわからず、右往左往しながらようやく会場へ。割とぎりぎりだったのだけど、雰囲気も割と緩く、ちょっとくらいだったら遅刻しても問題なかったのかも(いや、しないけど)。
とりあえず交付金に関する説明や決定通知書の授与なんかの事務的な会を終え、懇親会という名のランチタイムへ。でも、この研究助成は僕がやっている自然科学だけでなく、人文とか芸術とか幅広い分野への支援活動なので、当然のように知っている人は皆無(厳密には一人いるはずだったけど来てなかった)。さてどうしたものかと思ったけれど、まぁせっかくの機会なので色々な人としゃべってみようということで3人くらいの人に声をかけてみた。一人は半導体をやっているポスドクの方で、同じ物理学会員。一人はイオン液体の合成をやっているポスドクの方で、化学会員。一人はクロロフィルの分解過程を調べてる学生さんで、やはり化学会員。今振り返ると、もっと違う分野の人に話しかけてみてもおもしろかったかもなぁ。
で、帰りに気がついたのだけど、せっかくしゃべったのに連絡先交換するの忘れてた。こういうとき名刺ってやっぱ便利なのかも。今まで面倒で作ってなかったけど、ホームページも作ったことだし、名刺も作ってみるかなぁ。

2008/04/19

SPring8出張

4/17,18は、京都大学時代の関係者5名でSPring8へ実験に行ってきました。SPring8とは放射光というすごく強い光を使って実験できる施設で、かなり大がかりな施設(おそらく年間100億円規模のランニングコスト)のため、研究者や企業が共同で使いましょう、という体制で運営されています。山奥にあるためアクセスするのがすごく大変なんですが、数年前に山陽道からSPring8の近くまで行ける高速道路が開通してます。すごい。ちなみに、カレー毒物混入事件のヒ素を同定したので有名です。 

さて、このSPring8には様々な実験ステーションがあって、今回はBL40B2(写真参考)というX線小角散乱が使えるステーションで実験してきました(ヒ素とは別の装置です)。BL40B2はこれまでもたびたび利用させてもらってる(学生時代から数えて…もう7,8年!!)ので勝手はわかってますが、今回は真空に引くためのチューブ(写真奥)の窓が破れる、というトラブルが2回も発生。真空関係のトラブルは、下手するとケガにつながりかねない上に、空気が漏れる音とかでものすごい音がするため、うるさいわひやひやするわでちょっと大変でした。とはいえ、実験自体は順調でしたし、いくつかおもしろそうなデータもとれたので今後の展開が楽しみです。
ただ、こういう共同利用施設の実験って、限られた時間(今回は丸1日)の中で色々な実験をしなくてはいけないのでフルタイムで実験することになります。一応シフトを組んだりして負担が減るように調節はしますが、「1日ならまぁいいか」って感じで実験のキーメンバーは半徹夜で実験することもしばしばです。僕も今回はいくつか実験させてもらったのでずっと起きていたのですが、4時ぐらいに応援部隊がやってきた頃からKO。がんばって起きようとするんだけど耐えきれずいつの間にか寝てる、ってパターンを数時間繰り返してしまいました。不覚。

最後にどうでも良い話題を一つ。
SPring8に限らず、大学や研究所の売店は色々なスペシャルグッズを取り扱っていますが、今回の注目の品は"SPring8メジャー"です。なぜメジャーかといいますと、放射光施設は巨大な円形のリングになっているので、これをぜんまいみたになっているメジャーの収納部分に見立てているのだと思います。こういう「ならでは」感があるお土産ってなかなか無いのですっかり気に入ってしまい、思わず買ってしまいました。うちの研究所ももう少しひねったグッズを売り出して欲しいなぁ。

2008/04/14

RESEARCH(日本語)更新

web pageのRESEARCH(日本語)を更新しました。
これで、とりあえず日本語のページは体裁が整いました。
あとは英語ですね…はぁ。

2008/04/13

勝手に論文紹介(3月分)

備防録をかねて、最近落とした(けど読めてない)論文の簡単な紹介をすることにしました。多分、勘違いなコメントも多いかと思いますので、そのときは「こそっと」教えてください。

J.-B Fournier and C. Barbetta, "Direct Calculation from the Stress Tensor of the Lateral Surface Tension of Fluctuating Fluid Membranes", PRL 100 (2008) 078103.
膜の曲げ弾性と張力を考慮したハミルトニアン(Helfrich Hamiltonian)に関する論文。内容はちゃんと読んでないが、膜の波状運動について考えるときに何かの役に立ちそうなのでとりあえず落とした。

S. Semrau, T. Idema, L. Holtzer, T. Schmidt, and C. Storm, "Accurate Determination of Elastic Parameters for Multicomponent Membranes", PRL 100 (2008) 088101.
ラフトのようなmulti-componentの系で蛍光顕微鏡像から膜の曲げ弾性等を求める論文。値もまぁ妥当っぽい。暇があったらざっといいのでもう少し詳しく読んでみよう。

T. Bandyopadhyay, "Single-file diffusion through inhomogeneous nanopores", JCP 128 (2008) 114712.
カーボンナノチューブなんかを仮定した太さが不均一なナノポアに拘束された粒子の拡散挙動の理論…だと思う。ラフな表面か何かを仮定すると1次元の拡散(t^1/2)からずれるらしい。高分子だとどうなる?

F. Ikkai, "Structural Colored Balloons Consisting of Polystyrene Microcapsules in Water", Langmuir 24 (2008) 3412-3416.
数百μm程度のポリスチレンマイクロカプセルの論文。膜厚が可視光の波長程度なので構造色を持つらしい。色がきれいで思わず「へぇ~」って言ってしまった。

Y.-M. Yang, K.-C. Wu, Z.-L. Huang, and C.-H. Chang, "On the Stability of Liposomes and Catansomes in Aqueous Alcohol Solutions", Langmuir 24 (2008) 1695-1700.
アルコールに対するベシクルのlifetimeを調べた論文。ベシクルは大豆レシチンを用いたもの、対イオン性のCatanionic surfactantを用いたものの2種類で、比較している。レシチンもいわばCatanionic surfactantなので、こういう着眼点も重要だろうと思う。

E. Johansson, M. C. Sandstrom, M. Bergstrom, and K. Edwards, "On the Formation of Discoidal versus Threadlike Micelles in Dilute Aqueous Surfactant/Lipid Systems", Langmuir 24 (2008) 1731-1739.
cryo-TEMで界面活性剤/リン脂質混合系の構造変化を観測。平板や針状のミセルが形成されるが、どちらが形成されるかは脂質の状態と界面活性剤の電荷に依存する。意外と平板ってできやすい。

T. Toyota, K. Takakura, Y. Kageyama, K. Kurihara, N. Maru, K. Ohnuma, K. Kaneko, and T. Sugawara, "Population Study of Sizes and Components of Self-Reproducing Giant Multilamellar Vesicles", Langmuir 24 (2008) 3037-3044.
ちゃんと理解してないのだが、2種類のカチオン性界面活性剤(片方は短い1本鎖、片方は長い2本鎖)の足同士を化学的につないでおいて、それをあとで切る。長い2本鎖の成分はMLVを作るのだが、そのMLVがどんどん同じサイズで増殖していくらしい。何か不思議だ。

J.-Y. Wang, W. Chen, J. D. Sievert, and T. P. Russell, "Lamellae Orientation in Block Copolymer Films with Ionic Complexes", Langmuir 24 (2008) 3545-3550.
LiClを混ぜたブロックコポリマーをSi基盤上で薄膜にした際の構造を電顕とGI-SAXSで調べた論文。電荷により、in-planeの構造形成が促進されるらしい。やっぱ電顕と散乱の組み合わせは説得力あるなぁ。

A. Beerlink, P.-J. Wilbrandt, E. Ziegler, D. Carbone, T. H. Metzger, and T. Salditt, "X-ray Structure Analysis of Free-Standing Lipid Membranes Facilitated by Micromachined Apertures", Langmuir 24 (2008) 4952-4958.
微細加工を使って黒膜を簡単に作ろう、ということだと思う。このグループは基板上の支持膜を反射率で見る仕事を主にしていたのだが、次はfreeな膜に挑戦しよう、という感じなのだろう。去年の国際学会でポスターをチラ見したのだけど(本当は聞きたかったが貼り逃げしてたので話は聞けず)、反射率はまだうまくいってないように見えた。

2008/04/11

はじめに

研究者的な仕事をしている山田と申します。ホームページを作ったんで、それならブログとやらも、という感じで作ってみました。主に研究に関するメモ的なものにしていく予定です。あと、世間にcontributeするためにグラフ作成ソフトigorのマクロ解説みたいなのも作れるといいかなぁなんてことも考えてますが、こっちは実現させるか微妙なところです。

とりあえず、肩の力を抜いてやっていきますので、生暖かく見守ってください。